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鳥取地方裁判所 平成11年(行ウ)2号 判決 2000年5月16日

原告

有限会社 ホテル斉木

右代表者代表取締役

斉木啓邦

被告

倉吉税務署長 小田明治

右指定代理人

勝山浩嗣

武下満

藤音寛

湯川明則

松下悟

甲斐好徳

祖田定

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告の平成九年四月一日から平成一〇年三月三一日までの間の事業年度に係る消費税の更正の請求に対して被告が行った平成一〇年八月二六日付けの更正すべき理由がない旨の通知処分は、これを取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が、消費税法九条一項によって納税義務が免除されるべきであるということを理由とする原告の更正の請求に対して被告がなした更正すべき理由がない旨の通知(以下「本件通知処分」という。)は違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠により認定した事実については、その認定に用いた証拠を適宜掲記した。)

1  当事者

原告は、昭和六二年九月二八日に設立され、平成元年一月一七日から、鳥取県倉吉市内において、ビジネスホテルの経営や管理等を行っている。

2  本件訴訟に至るまでの経緯

(一) 原告は、平成七年四月一日から平成八年三月三一日までの事業年度(以下「平成七年事業年度」という。)を課税期間とする消費税について、課税売上高を三八六四万二一五六円として確定申告をした(乙一)。

(二) 原告は、平成一〇年六月一日、平成九年四月一日から平成一〇年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)を課税期間とする消費税について、課税売上高を二八四〇万一七九二円として確定申告した後、同年六月二五日、本件事業年度を課税期間とする消費税について、消費税法九条一項によって納税義務が免除されるべきであるとして更正の請求をしたが、被告は、同年八月二六日、同条項によって納税義務が免除される場合に該当しないとして、更正すべき理由がない旨の通知(本件通知処分)をした(乙三)。

そこで、原告は、同年一〇月二〇日付けで異議申立てをしたが、被告は、平成一一年一月一八日、右異議申立てを棄却する旨の決定をした(乙四)。

原告は、同年二月一二日付けで国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、国税不服審判所長は、同年八月三一日、右審査請求を棄却した(乙二)。

なお、右経緯の詳細は別紙のとおりである。

(三) 原告は、本件通知処分の内容を不服として、同年一一月二五日、本件訴訟を提起した。

二  争点

一定の事業者について納税義務を免除することを定めた消費税法九条一項が本件に適用されるか。

三  争点についての当事者の主張の要旨

1  原告

被告は、法人たる事業者の消費税の納税義務が免除されるか否かは、基準期間である前々事業年度の課税売上高が三〇〇〇万円以下であるか否かによって決定されるとの解釈を前提にしているが、この解釈を前提とした場合、例えば、ある事業者の課税期間の課税売上高が三億円であっても、基準期間である前々事業年度の課税売上高が三〇〇〇万円以下であれば、右課税期間に係る消費税については、納税が免除されることになる。

しかし、現実には、一般的な事業者は、消費税の納税義務が免除されない場合には取引相手から消費税を徴収して、免除される場合には消費税を徴収しない、というようなことはしておらず、また、現状としても、消費税法施行以来現在に至るまで、免税事業者は、消費税を徴収して納税せず自分のポケットに入れているのであるから、右の例であれば、その事業者は、三億円の五パーセントに当たる一五〇〇万円を取引相手から預かるが、その預り金を納税せず収益金としてしまうことになる。このようなことが適正であるとされるならば、納税者の理解と納得は得られない。

また、被告は、消費税法九条一項は、納税事務の負担や税務執行面に対する配慮から規定されたものであり、消費税を適正に転嫁することができるようにするために、基準期間である前々事業年度の課税売上高から、課税期間である事業年度の当初の取引から消費税を上乗せした金額をその取引相手から請求するべきか否かの判断を容易にさせて、取引の円滑化を図ったものであると主張するが、前記のとおりの現状からすれば、適正な転嫁という被告の右主張は説得力がない。

消費税法の法文作成は、国税庁の職員ではなく、大蔵省の担当者が行ったものであるが、国税庁は、長年、税務通達による課税、徴収を各税務署長に行わせてきたのであり、この慣習のために、消費税法の適用、課税を安易に考えて、租税法律主義を逸脱した法文作成に至ったものと思料され、このような大蔵省及び国税庁担当者の通達に依存した安易な考え方が、玉虫色の解釈が可能な消費税法の作成を招来したものであって、納税者である原告としては納得できない。

原告は、ホテル開業以来、消費税をホテル利用者に転嫁せず、徴収していないのであるから、本税を課税されることは承服できない。それなのに、一律に課税が可能であるとの被告の解釈は、消費税の基本的な趣旨に反し、全納税者及びすべての事業者の常識ともなっている三〇〇〇万円以下の売上高の事業者は免税されるとの社会通念に反し、消費税法が制定された立法目的に著しく逸脱したものであって容認できない。

2  被告

消費税法九条一項、一九条一項二号及び二条一項一四号によれば、法人たる事業者の場合、課税期間の消費税の納税義務が免除されるか否かは、基準期間である前々事業年度の課税売上高が三〇〇〇万円以下であるか否かによることとされており、課税期間における課税売上高が三〇〇〇万円以下であるか否かによって判定するものではない。

本件事業年度を課税期間とした場合の基準期間は、本件事業年度の前々事業年度である平成七年事業年度であり、その課税売上高は、三〇〇〇万円を超えているから、原告は納税義務を免税される事業者に該当しない。

第三証拠

書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四争点に対する当裁判所の判断

一  消費税法は、事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、同法により、消費税を納める義務があると定めるとともに(同法五条一項)、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が三〇〇〇万円以下である者については、同法に別段の定めがある場合を除いて、同法五条一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除するとしている(同法九条一項)。そして、同法において、課税期間とは、法人については、事業年度であるとし(同法一九条一項二号)、基準期間とは、法人については、その事業年度の前々事業年度であるとしている(同法二条一項一四号)。

そして、右各規定の内容によれば、法人について同法九条一項により課税期間である事業年度において消費税の納税義務が免除される場合とは、右事業年度の前々事業年度における課税売上高が三〇〇〇万円以下であり、かつ、同法に別段の定めがない場合であると解される。

二  これを本件についてみるに、本件事業年度において、原告が、同法九条一項によって消費税の納税義務を免除されるためには、本件事業年度の前々事業年度である平成七年事業年度における課税売上高が三〇〇〇万円以下であることが必要となるところ、前記のとおり、原告の平成七年事業年度における課税売上高は、三八六四万二一五六円であって、三〇〇〇万円以下ではないから、同条項によって納税義務を免除されるための要件を充足していないことは明らかである。

なお、原告は、本件通知処分が、同法の基本的な趣旨や社会通念に反し、同法の立法目的を著しく逸脱した被告の解釈に基づいてなされたものであると主張するが、同法九条一項の趣旨は、一定の事業者については納税事務の負担に対する配慮から消費税の納税義務を免除することにあると解されるのであり、また、同法二条一項一四号において課税期間に係る基準期間を課税期間である事業年度の前々事業年度と定めたのは、消費税が転嫁を予定している税であることにかんがみ、当該課税期間の当初から事業者が当該課税期間における納税義務の免除の有無について確定的な判断をもって取引することが可能となるように、当該課税期間の当初の時点において確実に課税売上高を把握できる前々事業年度を当該課税期間に係る基準期間と定めたものと解され(消費税が、仕入税額控除制度等によって適正に転嫁されるためには、事業者が課税期間において取引するにあたって、課税期間中に課税されるか否かを把握していることが前提となるが、前事業年度を課税期間に係る基準期間とした場合、事業者が、当該課税期間の当初の時点においては、前事業年度の帳簿等を十分に検討することができず、前事業年度の課税売上高を確実に把握することができない事態が生じる可能性が高いと考えられる。)、本件通知処分は右のような解釈に沿う内容のものであるところ、このような解釈が同法の基本的な趣旨や社会通念に反し、同法の立法目的を著しく逸脱したものであるとはいえないから、原告の右主張は採用できない。

また、右各条項の規定が内容としての合理性や文言としての明確性を欠いているともいえず、いわゆる租税法律主義に反してなされたものであるともいえないから、この点に関する原告の主張も採用できない。

三  よって、同法九条一項の適用がないとしたことについて、本件通知処分に違法な点はなく、その他についても違法な点はない。

第五結語

以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一二年三月一〇日)

(裁判長裁判官 内藤絋二 裁判官 一谷好文 裁判官 三島琢)

課税処分等経過表(平成九年四月一日から平成一〇年三月三一日までの課税期間)

<省略>

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